准看護移行教育センター |
すべての准看護師を看護師に 〜決定された2年課程通信制の内容と今後の課題〜 2003年12月3日、日本医労連・井上久 はじめに 2002年7月15日 坂口厚生労働大臣「平成16年度から開始をしたい」 2003年3月26日 「2年課程通信制」新設の省令改正が公布される ★内容はともかく、来春から始まることが確定した 1.准看制度・看護制度を考える私たちの視点 ●准と正の差別をなくしてこそ、患者を大切にするチーム医療は確立する @同じ看護をしながら、いわれなき陰湿な差別 A国の低医療費政策の下支え。経営者も甘い汁を吸ってきた(「お礼奉公」も) B「中卒2年」の制度を許していては、看護の社会的地位向上はない ●国民の求める安全でゆきとどいた看護の提供 看護職はよい看護がしたい @医療・医学の進歩と高度化、在院日数短縮の中で患者の重症化 いのち守る専門職として、よりレベルの高い看護が求められている A介護保険の導入、診療報酬改定で、リスクの高い患者が通院や在宅で治療を継続 病院だけでなく、在宅やすべての場所で、高度な看護が求められている B医療・介護分野にいっそう様々な専門職 コーディネーターや指導的役割が看護職に求められている ⇒看護制度を一本化、看護全体のレベルアップが願い (いのちを守る専門職) 参考・ILO看護職員条約・勧告
参考・看護制度についての基本要求(1993年日本医労連定期大会)
2.看護制度問題をめぐる経過とポイント 1992年 日本医労連「看護婦110番」 ⇒いわゆる「お礼奉公」なくす運動の推進 1994年 厚生省「少子高齢社会看護問題検討会報告書」 実態を調査して、准看護師制度に結論を出すよう提言 1996年 厚生省「准看護婦問題調査検討会報告書」 (12月25日) @21世紀初頭の早い段階を目途に、看護婦養成制度の統合に努める A准看護婦資格を有する者が看護婦資格を取得できるための方策を講ずる B養成所の運営に関して直ちに改善すべき事項を指摘(勤務義務付け禁止など) 1999年 厚生省「移行教育に関する検討会報告書」 (4月21日) 就業経験10年以上の者を対象に、5年間に限った特別措置として行う 教育内容は31単位930時間(理論学習・放送大学と技術学習・移行教育所) 1999年 厚生省「准看護婦の資質の向上に関する検討会報告書」 (6月24日) 養成所カリキュラムを1500時間⇒1890時間、教員数の増など 2001年 日本医労連は、「2002年通常国会中に実施のメドをつけよう」と提起 2002年 「移行教育の早期実現をめざす中央情報センター」結成(2月27日)、運動強化 2002年 日本看護協会が「2年課程通信制の弾力的運用」を提案(総会へ向けて) 弾力的運用とは…就業経験を考慮して授業を工夫軽減する 単位数は62のまま 2002年 厚生労働大臣が2004年4月開始と答弁 (7月15日、参議院決算委員会) @平成16年度から開始をしたい A2年課程通信制の運用をできるだけ弾力化したい ★1999年4月に検討会が決定した内容とは違う方法で行われることになった 2002年 「2年課程通信制の概要案」が明らかになる(11月29日、医道審保助看分科会) 2002年 抜本見直しを求める声明(12月5日、日本医労連) 2002年 パブリック・コメントはじまる(12月20日、概要案は一部修正されていた) 2003年 省令改正が公布される(3月26日) 3.決定された2年課程通信制の内容 (1)省令改正の要点 省令…正確には「准看護師学校養成所指定規則」のこと @就業経験10年以上の准看護師を対象とした2年課程通信制の新設 改正ではなく新設⇒1996年カリキュラム改正で導入された現行の2年課程通信制は廃止 ★就業年限は2年間 2年以上在籍しないと卒業できない ★「通信制」であり、送られてきた教科書で自分で時間をつくって勉強するのが基本 A大学や他の医療関係職種の学校養成所等で履修した単位の認定 放送大学等で修得した単位を、養成所の単位として認めてよいということ 2年課程通信制だけでなく、他の課程でも放送大学等で履修した単位を認定できる B省令改正の施行日は2004年4月1日 2年課程通信制の来春開始が確定。なお、この改正公布で、準備作業が可能とされた (2)2年課程通信制の入学資格 @免許を得た後10年(120ヶ月)以上業務に従事している准看護師 A「10年」とは、准看護師として働いた期間。就労形態は問われず、パート等でもよい B勤務を始めた月と終わりの月は、それぞれ1ヶ月と計算し、通算して120ヶ月以上 例えば4月15日から6月15日まで働くと実際には2ヶ月だが、4〜6月で3ヶ月と計算 C養成所に「就業証明書」を提出 ⇒ 施設の印鑑必要だが、無理な場合は特例も設ける ☆ただし、放送大学には10年未満でも入学できるので、事前に必要な単位を修得できる (3)臨地実習は他の内容に代えられた @従来の臨地実習はなくなり、紙上事例演習、病院見学実習および面接授業となる A具体的には、専門7分野ごとに、「紙上事例演習」は各3事例程度(計21事例程度)、「病院見学実習」は各2日(計14日)、「面接授業」は各3日(計21日) B各分野の通信学習を終えてから行う(例えば、通信学習で基礎看護学の単位をとると、基礎看護学の紙上事例演習等を受けられる)。最初に基礎看護学を行わなければならない C通う必要(拘束)は計35日(210時間) 移行教育検討会の決定270時間より短い (4)紙上事例演習とは、看護展開のレポート 専門分野ごとに3事例程度 @文章で示された架空の患者(ペーパーペイシェント)について、看護展開のレポートを作成することにより、問題解決能力、応用力、判断力に関する内容を学習するもの A単位数に関係なく、各3事例程度とされた 具体的な数は養成所・教員が決める B厚労省は「長さは問わない」と言うが…… 各養成所に無理のない量にさせる必要 (5)病院見学実習とは、病院の見学(従来の実習ではない) 専門分野ごとに各2日 @業務経験を踏まえて、病院の看護提供のあり方の実際を見学することにより、自らの看護実践に関する考察を深めるもの A「見学」であり、見に行けばいい (養成所が実務実習をさせることを否定してはいない) B実習施設は、学生が勤務している施設以外を基本に、2年課程通信制以外の実習施設としてすでに承認を受けている施設から選定する (例外だが勤務病院でできる場合がある) C就労継続を前提にした通信制であるため、養成所は「学生の利便性や意向を十分考慮して、実習場所や時期を決定すること」とされている (自分で見学病院を探してきてよい) D「専門領域ごとに1施設以上、当該養成所が所在する同一都道府県内に確保」となっているのは、2年課程通信制の養成所として認定されるための要件。実際の見学実習は、いろいろな病院になって構わない (自分で探した場合は、養成所に追認させる必要ある) E「病院」が基本。ただし、在宅看護論は訪問看護ステーション等で行ってもよい (6)面接授業とは、一般的な授業 専門分野ごとに各3日 @学生が養成所に通学し、専任教員と対面し直接指導を受けて、印刷教材による授業等で学んだ知識と、紙上事例演習、病院見学実習で学んだ実践能力の統合を図るもの A一般的な授業と考えればよい B「養成所に通学」とあるが、「学生の便宜性を図るため、教室・実習室等の代替施設および授業の実施に必要な機械器具を確保できる場合は、養成所以外の施設でも行うことができる」となった (病院や公共施設で行って構わないし、むしろ奨励されている) C病院や地域で養成所に集団入学し、面接授業の便宜をあらかじめ約束することも可能 (7)臨地実習以外は、すべて通信教育で行なわれ、1単位1レポートは標準に緩和 @すべて通信授業であり、通学の必要はない (時間の都合をつけて自己学習する) A運動で、「1単位1レポート」は「標準」に緩められた(厚労省の基本姿勢は変わらず)
Bレポート数を実際にどうするかは、各養成所・教員の判断となる (例えば、放送大学と同様に、1科目(2単位)につき1レポートで構わない) C中間テスト的なもの 送られてきた問題に回答して返送する(教科書を見てやれる) 紙上事例演習の場合の看護展開のレポートとは違う (8)実際には、放送大学で半分近くの単位をとることになる @総単位数の2分の1を超えない範囲で、放送大学、他の専修学校等での既習単位等の認定をおこなうことができる ⇒養成所の判断で、最大31単位まで、養成所の単位にできる 養成所の単位として認定できるということであり、最終的には養成所を卒業することに A放送大学には、単位として認定できるもの(対応している科目)が100科目以上ある B実際には、ほとんどの養成所が、30単位程度を放送大学でとることにすると思われる a.10科目については、厚労省も「単位にならないことがあるとは思っていない」と言う b.教官確保が別途必要な基礎分野は、放送大学にする方が、養成所にとっても効率的 ★原則放送大学での受講となるはずの10科目20単位
注)「看護学概説」も、「基礎看護学(7単位)」の一部になる。「夏」とは、夏季集中科目での開講の意 C養成所は、自ら授業する科目を決めて、他は放送大学等での履修を指示すると思われる D放送大学以外でも単位を取れるが、個別に入学せねばならず、あまり広がらない ☆先に放送大学に入学して、必要な単位を修得しておくことができる その方が有利 ☆放送大学には誰でも入学できる 就業経験10年未満でもはいれる (9)放送大学のしくみ、活用について @正規の大学だが、通信教育(印刷教材による自己学習とテレビ・ラジオの視聴、中間でレポート)で授業を行っている A入学試験はない。申し込みをし、学費を振り込めば、学生になれる
B年2回の入学チャンスがある
C具体的なシステム 願書提出・科目登録→学費振込→印刷教材届く→放送視聴・添削指導→単位認定試験 放送は週1回、1回45分で15回。中間で1回のレポート提出。あとは教科書で自己学習 夏季集中科目は、夏の4週間程度に集中して行われる D学期の構成
注)夏季集中型で、試験が2回となっているのは、2回の試験期日のうち、どちらかを選択して受けるということ E各養成所の判断で、最大31単位まで認定できる どの科目を単位として認定するかは、最大31単位の範囲で、各養成所が最終的に決める (10)教員等の必要人員 @専任教員は7人以上(学生が500人超の場合は、100人を目途に1人増員) 当分の間は5人でもよい。学生500人以上の場合の増員は目途、増員しなくてもよい A添削指導員は10人以上(学生が500人超の場合は、100人を目途に2人増員) 非常勤でよい。この場合も増員は目途であり、絶対条件ではない B事務職員は、通信制に付随する事務処理に必要な人数でよい (11)養成所を卒業すると国家試験が受験できる。国家試験の内容は今後の課題 @62単位とって、2年課程通信制の養成所を卒業すると、国家試験の受験資格が与えられる 復習;放送大学等で取得した単位も、各養成所の単位として認定されるということ VS;移行検討会の場合は、移行教育所と放送大学の2本立てだった A国家試験の内容をどうするかは、依然として、今後の課題となっている ★99年移行教育検討会の決定「同一の国家試験として実施する」の意味 検討会報告書の原案は「国家試験の工夫」とされていた 一部委員から異論が出て、国家試験の内容は国家試験委員会で決めることに 大学入試試験などでも、選択問題(例えば世界史と地理とか)は一般的に実施 今回の場合も、選択問題にするなど、工夫は十分に可能 (12)2年課程通信制の開設手続きと補助金について @通常の開設の手続き 厚労省へ計画書の提出(前年1月)→ヒアリング→審査→指導事項の伝達(前年3月) →指導事項に沿った改善→厚労省へ申請書の提出(前年7月)→調査・審査→(学生募集)→指定承認の伝達交付(養成所として承認、前年12月)→開校(4月) A来年4月開設の特例(通常の手続きでは間に合わないため、計画書を省くなどした) 厚労省へ申請書の提出(2003年9月10日まで)→調査・審査→(学生募集) →指定承認の伝達交付(養成所として承認、前年12月)→開校(2004年4月) B開設の計画書を出せば、開設前年度から補助金が交付される 一般の養成所は開設した年度から補助金が出るが、2年課程通信制は前年度から出る 補助額は1,464万円(経費が少ない場合は減額)で、国と都道府県が半分ずつ出す 4.決定された2年課程通信制の問題点 (1)弾力的運用になっておらず、就業准看護師に過重な負担を強いるもの @ 「現行の2年課程通信制と同等のものとする」ことを原則に、教育内容が決定されたため、過重な内容となってしまった。 比較;1999年移行教育検討会報告書…就業経験を考慮し、31単位930時間に凝縮 A 日本看護協会が昨年の総会に提案した「弾力的運用」では、十分な実務経験があるという理由で、臨地実習は7分野ごとに1本のレポートで単位を認定としていた。それから見ても過重な負担となっている。 B 通う必要(拘束)があるのは、35日(210時間、病院見学実習と面接授業)であり、移行教育検討会の決定した270時間(移行教育所、1年間で実施)より短くなった。 C レポート数や放送大学の単位認定など具体的な運用については、各養成所が判断することになる。それによってかなり左右される。 (2)必要な養成所、養成数が確保できず、希望しても受講できない事態が生じかねない @ 厚労省は開講を呼びかけているが、一般の場合と同様に、養成所が手を上げる仕組みにした。国や都道府県も責任が不明確。 A 准看護師の反応は、諦めの声も出ているが、「やっと道ができた」と相当数が受講を希望している。周りが受講をはじめれば、なだれ現象が起きる可能性もある。 (3)不十分な内容だが、准看護師と医労連の声と運動が切り開いた局面でもある 移行教育の早期実現を求める多くの切実な声が、硬直状態を打開した やっとつかんだ局面だから、多くの人に受講してほしいし、声を強め内容も改善しよう (4)99年移行教育検討会の決定も今回も、道の拡大という点では同一 本来の移行教育…養成停止後に、すべての准看護師を対象として行われるもの 広い意味での移行教育…就業経験の長い者への特別措置、道の拡大 4.学校開設状況と「准看護師アンケート」結果 (1)来春の開設は4校のみ、その後の開設確定も一部に止まっている 来春の開設…栃木、山口、福岡、大分 その後 …愛知、熊本、首都圏2校 北海道、長野、岐阜、兵庫、和歌山…… (2)受講希望が非希望を若干上回る 受講希望 … 希望者49.3%、非希望者44.5% 希望しない理由…年齢からの諦め 仕事との両立の難しさ 若い層では経済的理由も 希望する理由 …「自らの看護を向上させたいと思うから」が3分の2(66.9%) 一定期間で希望者全員の受講を保障する養成所開設求める運動の徹底した強化 (3)支援措置への要望 経済的支援と勤務軽減など仕事・家庭との両立支援 国・自治体…「学費の援助・軽減措置」59.9%、「特別休暇制度」45.7%、 「全県への養成所の設置」37.7% 経営者…「今の収入の維持」50.9%、「職場の理解と支援づくり」43.3%、 「勤務日の調整」36.7% 養成所…「レポート数軽減など、就業と両立できる通信学習の設定」69.2%、 「安価な学費設定」51.7% (4)准看護師制度は廃止すべきが3分の2 「廃止すべき」が3分の2(65.9%) しかも、年齢にともなって割合が上がっていく 深刻な矛盾の表れ 5.今後のとりくみについて (各地の具体的とりくみにもふれながら) (1)情報提供の徹底と准看護師の要望を把握する活動 医労連や情報センターでの広報活動や学習会活動 国や自治体に情報徹底をせまる (2)希望者全員の受講を保障する養成所確保と充実した支援措置確立を求める活動 一定期間で希望者全員の受講を保障させる 「1県1校を基本に」 署名運動など、県にせまる運動を (3)充実した支援措置の確立 経済的支援策の具体化 仕事の両立の制度的保障 (4)放送大学の受講推進と留意点 学習グループをつくって、みんなで受講しよう 各地の経験でも集団学習が決定的 放送大学の受講を先行させて、まず自分の学習ペースをつくろう ☆放送大学で一定の単位をとってから入学する方が有利 (5)准看護師の切実な声、要望に応え、内容の改善を迫る活動 レポート数など内容の軽減 就業との両立での具体的な制度保障 など (6)職場・地域から受講支援の輪を 准看護師のみならず、看護全体の課題 経営者にも働きかけ ☆経営者の支援措置も広がってきている…看護部長らが先頭に集団受講。学費の援助も (7)看護制度一本化・准看護師養成停止もとめる活動のいっそうの強化 「21世紀初頭の早い段階を目途に養成制度の統合に努める」とした報告書の履行迫る 看護制度一本化へ、あらためて世論形成をすすめる 以 上 |