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介護職員基礎研修に対する基本的な考え方と今後の課題

2006年3月
東京医労連執行委員会


1、はじめに

 厚生労働省は9月26日に介護職員基礎研修(以下基礎研修)の概要を発表した。施設・在宅を問わず、介護福祉士の資格を持たないで働いている介護職員を対象にした基礎研修を導入するとして、以下のように「第二次中間まとめ」を発表した。
 1年以上の実務経験者で2級ヘルパーは講義・演習を150時間、1級は60時間、その他(無資格者も含むと思われる)は300時間の研修を受講することになる。 
 1年未満の実務経験者は、2級で講義・演習210時間と実習140時間の計350時間、その他(無資格者も含むと思われる)は講義・演習360時間と実習140時間の計500時間の研修を受講するとしている。
 そして、基礎研修修了者が介護福祉士を受験する際の資格要件を緩和するとしている。(緩和等の内容については不明)。この基礎研修を2006年後半から実施し、当面は基礎研修修了者を就労の条件とし、段階的にヘルパーの資格をなくすとしている。


2、基礎研修をどう見るか

 利用者に質の高い介護サービスを提供することは、ヘルパーや事業者にとっても必要な課題であり、そのためには医療等の専門職養成過程と同程度の研修時関が必要だとも考えられ、よって現状のヘルパー養成課程(2級130時間、1級360時間)では不十分との指摘も以前からされてきた。こうした点から考えると、今回の基礎研修は、研修時間からみて十分とは言えないまでも、現状の養成課程から見ると一歩前進と考えられる。しかし、基礎研修のガイドラインやヘルパーが受講する際の身分保障(賃金・労働条件や受講する際の保障など)をどうするかを示さず、資格要件だけを前面に出しており、ヘルパーや介護事業者など介護関係者の意見や要望を反映した報告とはなっていないのが実情である。
 介護のスキルを上げるためには、充分な時間をかけた養成課程、資格取得後の研修が重要である。そのためには、希望する全てのヘルパーが安心して研修を受けられる環境整備が必要であり、それをヘルパーや介護事業者に責務を押し付け、国や自治体の役割と責務を放棄するような研修制度は納得できるものではない。
 同時に、ヘルパーのスキルアップを図るには、専門職に相応しい身分保障と労働環境を作ることも重要なことを指摘したい。
 

3、今回の基礎研修でヘルパーはどう思うか

 段階的ではあるが、将来ヘルパーの資格では、施設・在宅で働くことが出来なくなるとしていることは、現在働いているヘルパーに不安を押し付けるものである。
 実際に基礎研修が始まったらどうなるか。予想されることは、受講料は10万円を超えることが予想される。(1級養成課程の受講料でも、民間で18万円から20万円くらいである)。また、現在働いているヘルパーが受講するためには労働時間を削らざるを得ず、収入が減ることが予想される。高い受講料を支払い、収入が減ってまで基礎研修を受講するヘルパーが何人いるだろうか。特に、あえて短時間労働を選択しているヘルパーは、基礎研修を受けないことが十分に予想される。実際にある事業所の50代60代のヘルパーさんは、そうなったらヘルパーを辞めざるを得ないと述べている。
 こうしたヘルパーの声から見て、基礎研修はヘルパーのリストラではないかとの危惧を抱くのは私たちだけではないだろう。


4、基礎研修において自治体の果たす役割が明記されていない

 2級ヘルパー養成では、自治体が積極的に養成課程を実施した。(直接開講した自治体や民間に委託して実施した自治体等があるが)。本来なら、ヘルパーの養成で大きな役割を果たした自治体が、基礎研修でも役割を果たすことが必要である。しかし、基礎研修は、ヘルパー養成実施機関や介護福祉士養成学校などのうち、厚労省が認定するガイドラインに基づいて認定された機関が行うとしているだけで、自治体の果たす役割について明示されていない。


5、希望するヘルパー全員が受講できるために

 基礎研修を希望するヘルパー全員が受講できるようにするためには、前記したように、国や自治体の果たす役割が重要となってくる。
 そのためには、この秋から来春にかけて、改正・介護保険の凍結・介護保険制度の改善・介護報酬の引き上げの運動と連動して、国や自治体に要望していく事が重要な課題となってくる。
 現時点で東京医労連ヘルパー協議会として、以下のような主旨の要望を東京都や区市町村に要望を行っていくことを検討している。

 1 ヘルパーが安心して基礎研修を受講できるために、東京都として有給保障による何らかの研修制度を作るべきである。

 
2 東京都として区市町村に、基礎研修を自治体として開講することと、開講にあたっては一般会計から補助を行い、安い費用で受講できるよう指導すべきである。

 
3 東京都として事業者に、業務保障でヘルパーが基礎研修を受講できるよう指導すべきである。そのために、国に介護報酬の引き上げを要望すると同時に、東京都として、業務保障で受講させている事業所を対象に何らかの財政補助を行うべきである。

 
4 基礎研修を始めるにあたって国に対し、機械的に実施せず、ヘルパーや介護事業者の要望を聞いて実施するよう要望すること。同時に、ヘルパーが介護現場から追い出されることのないよう国に要望すること。

 
5 介護の質を高めるためには、資格要件だけでなく、適法的でまともな雇用関係を作り、社会的な役割にふさわしい身分保障を作ることが重要であり、東京都として国にヘルパーの労働環境改善を図るよう要望すること。

 以上のような要望を整理して、早い時期に東京都に要請と交渉を実施したいと考えている。


6、基礎研修を定着させるにはヘルパーの身分保障改善が必要

 今回示された基礎研修は、介護の質を向上するためにとしている。しかし、介護の質を高めることは、資格の統一や研修時間の確保だけで解決する課題ではない。介護現場で働くヘルパーやケアワーカーが安心して働ける条件の整備(賃金・労働条件・研修体制)や、直行直帰の登録型雇用などの非近代的な雇用関係を改めることが重要である。
 その上で、十分な時間をかけた養成課程や卒後研修・現任研修・キャリアアップ研修などを行うべきだと考える。
 従って、基礎研修と介護福祉士に資格を統一するだけで、ヘルパーのスキルアップをはかり利用者に質の高い介護サービスを提供することは出来ないと考える。何度も主張しているように、ヘルパーが介護の専門職としての身分保障の確立と、社会的な役割にふさわしい処遇に改善をすることが重要である。
 そのためには、介護保険制度の改善が重要であり、東京医労連として、国や自治体に要請と交渉を行うと同時に、地域からヘルパー・事業者・利用者・自治体と共同した運動を進めることを呼びかけるものである。

以上


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