ヘルパー協議会

「利用者により良い介護サービスを提供し、
安定した介護事業の継続と、ヘルパーが人間らしく働き続けられるために」


東京医労連ヘルパー協議会から介護事業所への提言1


1、はじめに

 4月1日から改正介護保険が実施され、新たに介護予防サービスが始まり、介護予防訪問介護、介護予防通所介護など16のサービスを提供することになります。介護予防サービスは、これまでの要支援と要介護1(改正介護保険では、要支援1と要支援2になる)の軽度の方を対象に、全国で160万人の方がサービスを受けることになると言われています。
厚生労働省は、ヘルパーが利用者に不必要なサービスを行うことによって、軽度の要介護者の介護度が重度になるとの言い掛かりを付け、介護現場の意見も聞かずに、財政的な視点から介護予防を導入しました。
 この介護予防サービスの導入で、それまで生活支援などの介護サービスを受けていた利用者が、従来の介護サービスが受けらなくなる恐れもあり、高齢者が在宅で暮らしていく上で深刻な事態が生まれようとしています。また、介護事業者にとっても介護予防サービスへの移行による減収が予想され、安定した介護事業を継続することが困難な事態になることが懸念されています。同時に、介護サービスの時間数が減ることにより、ヘルパーの仕事量や賃金が減ることも危惧されます。このように、改正介護保険によって利用者・介護事業者・ヘルパーそれぞれが深刻な影響を受けることが考えられます。
 このような事態の中で、利用者により良い介護サービスを提供し、安定した介護事業が継続され、そしてヘルパーが専門職として相応しい身分保障と労働環境を実現するために、東京医労連ヘルパー協議会としての考え方を述べたいと思います。


2、ヘルパーは在宅介護を支える専門職

 訪問介護サービスをはじめ在宅介護は、高齢者の方が在宅で暮らすためになくてならないサービスです。その人が地域でその人らしく暮らせるためには、医療・看護・介護の連携が必要であり、どれが抜けても高齢者が在宅で暮らすことは出来ません。ヘルパーは、在宅介護を支える重要な役割を担っており、専門的な知識と技術によって裏づけられた仕事を行い、社会的な役割を担って働いています。
 本来なら、在宅介護を支える専門職として、医療・看護と同じような身分保障と労働環境の確立が必要なのに、極めて低い評価を受けているのが現状です。そして、低い評価により、多くのヘルパーは非近代的な雇用形態と劣悪な労働環境の中で働いています。
 利用者に安心で質の高い介護サービスを提供し、安定した介護事業を継続するために、社会的な役割に相応しい身分保障と労働環境の実現が必要となってきます。


3、改正・介護保険でヘルパーが受ける影響は

 1月末に介護報酬の仮単価がだされましたが、平均0.5%のマイナス改定(05年10月改定を含めるとマイナス2.4%)となっています。介護予防サービスでは、利用限度額が要支援1(従来の要支援)では20%削減、要支援2(従来の要介護1)では40%の削減となっています。また報酬では、介護予防訪問介護に包括性が導入され、月12,340円〜40,100円となっています。
 これにより、軽度の利用者が多い事業所では収入が大幅に減ることが予想され、人件費を削減することで減収分を取り戻そうとする動きが出てきています。新聞報道(赤旗2月15日付け)によると、時給を800円に引き下げたヘルパーの訴えが紹介されています。
 東京都内のいくつかの事業所でも、介護予防サービスの実施と介護報酬の改定を前にして、ヘルパーの時給や労働条件の見直しの動きが出てきています。
 見直しの動きをまとめると、1、介護事業を別法人化にして、新たな賃金や労働条件に移行させる2、事業所の収入が減るとして、ヘルパーの時給を引き下げるなどとなっています。
 このように、介護事業者は、改正介護保険の実施と介護報酬の改定による減収を、ヘルパーの賃金や労働条件にしわ寄せすることで乗り切ろうとしているのが特徴となっています。


4、利用者により良いサービスを提供するためにはヘルパーの確保が必要

 利用者が安心して老後を在宅で暮らすためには、介護サービスの充実と専門職としてのヘルパーの確保が必要です。そのためには、ヘルパーが安心して働き続けられる労働環境を作ることが重要であり、賃金・労働条件の改善と、事例検討会やカンファレンスなどの教育研修の充実が求められています。
 改正介護保険で受ける影響をできるだけ少なくするために、人件費を削減することで介護事業を維持しようとする動きが強まってきています。しかし、このことで専門職としてのヘルパー確保は一層困難となり、利用者に質の高いケアを提供することが出来ず、結果として利用者離れがすすむことが心配されます。
 安定した事業を継続するためには、人材確保と育成が成否の根幹ではないでしょうか。事業を継続するために安易に人件費を削減することではなく、ヘルパーが安心して働き続けられるような賃金や労働条件を実現することこそ必要であり、そのことが利用者により良い介護サービスを提供する最大の保障であることを重ねて強調します。
 いま求められているのは、「ヘルパーを辞めさせない」「ヘルパーとして働き続けられる」条件を整えることであり、同時に、介護保険制度と介護報酬の改善を求める運動を強める中でヘルパーの身分保障を確立することが、労使共同で取り組む課題ではないでしょうか。
 私たちの運動で介護保険制度が充実したとしても、そこで働くヘルパーの賃金や労働条件の改善がなされない限り、介護保険制度の定着はありえないことを強調します。   
 以上の考えに沿って、積極的な介護活動を行う中で、ヘルパーの確保と育成を図ることが必要なことを強調し、当面以下の問題提起を行います。


5、積極的な介護活動の展開で経営の継続を

 介護収入が減る中で、安定した介護事業を継続するためには、積極的な介護活動を展開することが必要だと述べました。そして改正介護保険では、新たな介護サービスとして、介護予防サービスと地域密着型サービスが行われます。
 これらのサービスには、様々な問題点や課題も残されてはいますが、しかし事業として積極的な展開を検討することは、必要ではないでしょうか。
 積極的な事業展開が、新たな雇用と利用者の確保につながり、これらの事業の中で、医療機関との連携を強めることも重要です。

上記の視点に立って、当面する介護活動について考え方を述べたいと思います。

 1、地域密着型サービスは、高齢者の方が長年生活している地域で暮らしていく上で必要なサービスだと考えています。地域密着型サービスを、地域の方々にとってより良いサービスにするために、地域住民との協働で、充実した医療・看護・福祉の街づくりをめざし、積極的に事業として地域密着型サービスを行ってはどうでしょうか。

 2、今回の介護報酬の中で、特定事業所加算(10%から20%)が新設されました。この加算を取得するためには、体制要件、人材要件、重度対応要件をクリアすることが条件となっています。
 加算を取得するには、介護福祉士の確保や介護度の重い利用者の確保など問題となる課題もありますが、利用者により良い介護サービスを提供するために、事業所として特定事業所加算を取得するための条件整備を行うことが必要ではないでしょうか。

 3、今後、医療改革によって重度の患者さんやターミナル患者さんの在宅への誘導が始まります。これらの受け皿として在宅介護を支える基盤整備が求められてきます。そのために、24時間の訪問看護・訪問介護サービスの展開と、医療・福祉の連携した事業を行うことが必要ではないでしょうか。

 4、診療報酬の中で「在宅療養支援診療所」(仮称)が提起されています。積極的に「在宅療養支援診療所」(仮称)の事業を展開あるいは連携を行う中で、質の高い医療・看護・介護の在宅サービスの充実をすすめることが必要ではないでしょうか。そのために、ヘルパーに対する研修や教育体制を充実し、質の高い看護・介護を提供することが必要ではないでしょうか。

 5、住み慣れたところで、地域の高齢者の方が安心して老後を送るためには、訪問介護サービスだけでなく、高齢者施設事業も必要となってきます。そして、在宅から施設へ、施設から在宅へと、利用者の移動も増えてきます。ヘルパー及びケアワーカーが、在宅も施設も両方のケアが出来る力量を高めるためにも、ヘルパー・ケアワーカーの交流が必要ではないでしょうか。

 6、自立支援の立場にたったケアプランの作成と介護事業を広げるために、居宅介護支援を取っていない事業所は、積極的に居宅介護支援を取得すべきではないでしょうか。

 7、地域包括支援センター運営協議会や事業所連絡会などを積極的に活用し、政策提言と情報の取得を図ることが必要ではないでしょうか。

 8、地域で一人暮らしの高齢者も在宅で生活できるような、在宅介護と在宅看護・医療のネットワークを作ることが必要ではないでしょうか。

 以上、何点かにわたって東京医労連ヘルパー協議会としての考え方を述べました。   
 利用者の願いは、住み慣れたところで老後を安心して暮らすことであり、それを実現するためには、利用者の立場にたった介護事業を展開することだと考えています。そのためには、ヘルパーが人間らしく働き続けられる労働環境と雇用の確保を図ることが重要ではないでしょうか。


6、最後に

 改正介護保険によって、利用者・介護事業者・ヘルパーの受ける影響は深刻なものがあります。しかし介護事業者は、そのしわ寄せをヘルパーに転嫁することで乗りきるのではなく、利用者・事業者・ヘルパーが共同した取り組みを行うことで、打開の道を探ることこそ必要なことではないでしょうか。
 また、前記したように、厚生労働省は、改正介護保険や医療制度改悪法案に見られるように、在宅重視の施策を更に推しすすめようとしています。在宅サービスを支える職種としてヘルパーは重要な位置を占めています。中長期的な視点から見るなら、在宅を支える職種をどう確保するかが事業の成否を決める重要な課題となります。そのためには、現在働いているヘルパーを辞めさせるのでなく、働き続けられる条件をどう作っていくのかが、大切な視点だと考えます。
 利用者が安心して介護サービスが受けられ、安定した介護事業を継続し、ヘルパーが人間らしく働き続けられるために、利用者・事業者・ヘルパーが共同して国や自治体や積極的に働きかけていくことが重要であることを重ねて強調します。


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